1964年度 (昭和39年) 日本動物学会受賞者講演要旨


森下正明 (九州大学大学院・理学研究科・生物学教室 助教授)

一般的に見て動物の各個体はそれぞれの種の分布範囲の中に一様にちらばっているのではなく、場所的条件のちがいなどに応じて大小の局地的集団を形づくって生活しているものがむしろ普通である。
しかし、それら集団の内部においては、種によりまたは条件によって各個体間に種々異なった分布関係が見出される。
ある種では集団は個体間の誘引性にもとづく「むれ」に分たれ、またある種では各個体の間に「なわばり」とよばれる地域の独占関係が見出される。
また、たとえばなわばりは形成しなくても個体間の反発性の存在が分散を促進させる個体群圧力として働き、その結果場所的条件に差がある地域においても、高密度の下では個体分布が一様化する傾向すら認めることができる。
このような個体群と場所的条件との関係、個体群内部における個体間の関係、およびこれらの複合作用を明らかにするためには、まず個体の空間分布状態を正確に把握することが必要である。
そのための一つの方法として演者は個体間の分布間隔を測度とする「間隔法」の確立を試み、この方法に対してある程度の理論化と開拓とを行うことができた。
ただし間隔法の利用は動物では著しく限定されるため、一方において通常行われている一定空間を単位とするサンプリング法による資料処理の改良を試み、個体の集中度表現のためのIδ指数を考案するとによって、従来の分数指数の欠点である指数値に対する密度の影響を一部を除いて除去することに成功した。
その結果サンプルの単位の大きさのちがいに応ずる指値の変化曲線によって、集団の状態やその大きさを解折することがある程度可能になるとともに、種間関係や群集間の類似度の測定をもこの指数を利用して従来より正確に行い得ることになった。
なおその上にこの指数はサンプリングの精度の問題や要因分析法など、かなり広い方面に対して有効に利用できる見通しが得られるにいたった。

京都大学名誉教授
森下正明 研究記念財団
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